「シャーロック!?どこ!!」

がぱたぱたと歩きまわる音がして、僕はしぶしぶ頭を伸ばした。
最近、事件もなく、バーツに行って実験するのも、時間を忘れるくらい面白い本にも出会えず
僕の脳は腐ってしまいそうで、人と話すのも面倒になったのが昨日の夜。
寝室から持ってきた僕用のシーツにくるまって、そう思った。
は既に僕の部屋で眠っていたし、ジョンは酔って帰ってきてソファで崩れていた。
はっと思った。ドラゴンなら、話さなくてもいいと。
僕は今朝からずっと小さなドラゴンになって、眠っていた。
この姿は楽だ。服を着なくても怒られないし。

「シャーロック!!」

の声が心配する声から、段々と怒りを帯びてきた。
まずい。このままソファとクッションの隙間で隠れていたら、見つかった時、ものすごく怒られそうだ。
人間に戻っても、ぶつぶつ文句を言うだろう
仕方ないので、僕は羽を久しぶりに広げてリビングを飛んだ。
のし、と彼女の肩につかまると、思ったより大きくの体は反応した。

「っ!!!」

すり、と頭を押しつけて、やっと彼女は何が起こったのか気付いたらしい。
肩から僕を持ち上げて、目線を合わせた。

「シャーロック!もしかして朝からこの姿だった!?」

後、数分早く出ていけばこんなに怒ってなかったのに。
僕の推理は外れて、彼女はもうそれなりに怒っていた。
僕は答えない。ドラゴンは話さない。
実際、キチンとした大きさのドラゴンになれば、話すことも苦じゃないけど
この姿だと色々と制限されるし、こんなロンドンの中心街で実際の大きさになったら
それこそ、軍隊どころじゃないと思う。

「もう!置き手紙もないし心配したんだから!」

彼女は僕をつかんだままゆさゆさと振った。
頭がぐあんぐあんする。
無理やり彼女の手から離れて飛ぼうとしたが視界が揺れてまっすぐ飛べない。
僕はクッションに突っ込んだ。

「ジョンにメールしなくちゃ!」

今日は、仕事に行かないんだろうか。
ジョンは朝早くに出て行った。
彼女はスマートフォンをいじりながらケトルに水を入れて火にかけた。
僕はもう一度羽を広げて、彼女の頭に座った。
今日は、コーヒーより紅茶がいい。アールグレイが飲みたい。
こう言う時話せないと困る。人間に戻ってもいいが、それはそれで面倒だ。
服を着なければならない
・・・・・・・誤解されそうだから言っておくが、僕は裸が好きというわけじゃない。
面倒なんだ。必要ないことは、したくない。必要ない知識もいらない
かつん、と紅茶の缶が入っている棚をつつくとが頭を上げてた。

「紅茶?珍しいね」

君とゆっくりした朝を過ごすのも久しぶりだからな。
といいたがったが、それもかなわない。そうか僕は彼女と二人っきりだと
そう話すのも面倒ではないのかもしれない。
彼女は忙しい。諜報員として優秀だし、マイクロフトのお気に入り。
記録が残るような報告ができない仕事だって、やっている。
彼女は棚から紅茶の缶を出した。アールグレイだ。
しばらくして、紅茶の香りが広がった。

「私も紅茶にしようかな。おいしそう」

彼女は朝食の用意をしていく。
も僕も、朝はあまり食べない。
しかし、こうして暇だと、食べざるをえない
小さなドーナツとティーカップのアールグレイは僕の分、
生クリームの乗ったマフィンとマグカップはの分だ。
向かい合わせに座って、彼女は静かに新聞を広げた。
お互い、黙って、静かに朝食を食べる。
部屋には、食器の音だけが響いていた。
今、この瞬間、僕は彼女にどうしても触れたかった。
愛や恋なんて、僕には必要ないものだったはずだ。
この気持ちを、もっと言えば、こういった欲を植え付けたのは彼女の責任。
僕はソファの上に丸めておいたシーツに頭を突っ込んだ。

「シャーリー?」

ただの女性の声だ。高い声。
なのに、君の声だけが、甘く聞こえる。
僕は返事をしない。彼女が近づいていた。僕は、

「っ!」

彼女を捕まえた。

「び、吃驚した!」
「・・・・。」

じ、っと見上げる。君の声だけが甘く聞こえて、君の行動だけが僕を誘惑する。
駄目な男の特徴的な症状だ。

「・・・・シャーロック・・?」

僕は赤い唇に噛みついた。